人気がなくなると、佐々木が口を開いた。
「あの……それで一体、僕に何のようですか」
言われて譲は立ち止まり、佐々木に振り返る。
そして勝手になるほど、と納得する。
綺麗な顔立ち、確かに美男子だ。あぐりとお似合いで、誰もが認める美男美女だ。
譲は口元を緩める。
「大切にしなさいよ」
「は……?」
さすがにこれは言葉足らずだと思った譲は、言葉を付け加える。
「大事なものは、命を掛けててでも護りなさいね。いい?経験者からの助言よ」
すると、ようやく譲の言っていることを悟ったのか、佐々木が赤く染めた顔を袖で隠す。
「なぜ……あぐりのことを……」
「なぜって……本人がここを尋ねてきたからよ。でもここは女人禁制。だからあなたが帰ってくるまで私が相手をしてたの」
ばっと申し訳なさそうな顔で、佐々木が勢いよく頭を下げる。
「す……すみません!余計な気を遣わせてしまって!」
ぽんぽんと譲は佐々木の肩を叩く。
「いいのよ、別に。それより、きちんと護りなさいね。あぐりちゃんのこと。絶対に、大事なものを失ったらだめよ。後悔したくないなら、今よりもっと強くなるといいわ」
顔を上げた佐々木と視線が交わる。
その瞳には、真剣さとどこか寂しげな色が浮かんでいた。
「譲さんは……後悔したことがあるのですか?」
痛いところを衝かれて、譲は一瞬、言葉に詰まるが、やがて苦い顔で真っ赤な炎に包まれて焼けた村や、母と父、兄の顔を脳裏に浮かべながら語る。
「そうね……私の力が足りなくて、とても大切なものを失った。何を引き換えにしても……ずっと一緒にいたかった……」
譲は空を見上げる。とても澄んだ、綺麗な青々とした空だった。
あの青さと、煌く陽の光に目を細める。
「だから……誓ったわ。もう何も失わないように、強くなるって」
それから、痛々しげな瞳の佐々木を見て、微笑んでみせる。
「だからあなたには、私と同じような思いをしてほしくないの。あ、でも私今はとても幸せよ」
「はい……ありがとうございます」
佐々木もようやく笑顔になる。
神妙な雰囲気はすでに晴れていた。
再び二人は歩き始めた。

