平隊士の部屋に向かう途中、奇遇にも佐々木と会うことができた。
佐々木は佐伯という隊士と共に歩いており、譲に対して頭を下げて通りすがろうとしたので、譲はその場に立ち止まった。
「佐々木、ちょっと」
きょとんとしたように、佐々木がこちらを見る。
「僕に………用ですか?」
「そうよ。あ、大丈夫。私、監察方だけど、あなたを取り締まるとかそういうのじゃないから」
そう告げると、佐々木はほっとしたように堅かった表情をほぐした。
「そうですか。では、何の御用で」
譲はちらっと、佐々木の隣にいる佐伯を見、佐々木に視線を戻す。
「そうね。ちょっと佐伯、ここは外してくれる?」
容易にあぐりのことを人前で口外するわけにはいかない。
あくまでも、佐々木は浪士組隊士。女にうつつを抜かすなどあってはならないのだ。
だが、譲は、あぐりの反応を見ていると、佐々木を罪に問えなかった。
もし二人が秘密裏に思いを通わせているのだとしたら、自分はそっとしておいてあげようと思う。
しかし、譲の言葉に佐伯は嫌味を漏らす。
「へえ、浪士組唯一の女隊士が、美男子の佐々木に御用ね……」
明らかに譲を馬鹿にした言葉に、佐々木は佐伯を叱咤する。
「おい、お前、それはないだろうが」
庇おうとする佐々木に、譲は首を振る。
芹沢さんがあの公の場で、自分の性別を明かした時から、佐伯みたいな隊士はいると覚悟はしていたのだ。だからいまさら、どうということはない。
「いいわ、佐々木。とにかく行きましょう」
「はい……」
虫の居所が悪そうに、佐々木は譲の後を追った。

