どうやらあぐりは用があって佐々木に会いに来たらしく、譲の提案で、それから譲とあぐりは、佐々木が帰ってくるまで譲の部屋で世間話を楽しんでいた。
あのまま庭や縁側で話していたら他の隊士に見つかってしまう。
ここは女人禁制なのだ。
あぐりと話をしているうちに、二人は出会って間もないが心を打ち解けあえていた。
どうやらあぐりとは気が合うらしく、話をしていると、彼女といる間だけは、とうの昔に捨てたはずの「女」でいられる気がした。
そうしている内に時はあっという間に流れ、外から賑やかな声が聞こえてきた。
どうやら、十番隊が帰ってきたらしい。
「譲はんとはまたゆっくりお話したいわ。今度は女子の格好で」
愛らしい笑顔で微笑むと、上品な仕草で立ち上がる。
立ち振る舞いといい、言葉遣いといい、よく、礼儀作法を身に付けている娘だと譲は感心する。
「そうね……女の格好ね……」
譲は最後の言葉をあやふやにさせ、決して『絶対』と言うことはなかった。
「ほな、失礼します」
あぐりがそのまま帰ろうとするので、譲は慌ててその袖を掴んだ。
「待って、送っていくわ」
「そうどすか。それはおおきに」
二人は部屋を出ると、庭に向かい、譲は玄関の傍であぐりに待つように言った。
「ここにいて。今から佐々木を呼んでくるから」
そう言うと、あぐりは顔を仄かに赤くさせるという分かりやすい反応をみせた。
譲はふっと表情を和らげるように目を細める。
(本当に……好きなんだな)
譲は、平隊士がいる部屋に向かった。

