幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜








井戸に向かっていると、譲はふと、八木邸の入り口辺りで、こちらの屯所の様子を窺うようにきょろきょろしている、自分と同じ歳ぐらいの娘を見かけた。








どこかの間者かと思ったが、怪しい気配は感じられず、譲は警戒心もそこそこに娘に近付いた。





お団子頭が似合う、色が白く、顔も小さくて、可愛らしい娘だった。





すると、こちらの気配に気付いた娘がぺこりと会釈する。





譲も返事に頭を下げ、さっそく問い尋ねる。






「あの……浪士組の屯所に何か御用でも?」





到底、用があるようには見えない。





答えを待っていると、娘が急に頬を赤らめて、小さな声で囁くように言った。






「あの……佐々木はんはどちらにいらっしゃいますやろ?」






なんとか娘の声を聞き取り、譲は腕を組み、をはてと考え込んだ。







確か…、佐々木愛次郎というなかなか顔立ちのよい隊士が左之さんの十番隊に所属していたような…。




譲は隊内の風紀を取り締まる監察方なので、一応は誰がどの隊に配置されているのか、把握しているつもりだった。






「佐々木なら、今は巡察に行ってますけど…」




譲は一度、言葉を濁らせる。





「あなたは一体……」





娘ははっとすると、突然かしこまって、深々と頭を下げた。








「すんまへん、申し遅れておりました。うち、あぐりといいます。佐々木はんとは恋仲なんどす。どうぞよろしゅう」





ああと、譲は何となく納得する。






「私は龍神譲。でも、いくら恋仲だからって、こんなところに女一人で来るものじゃないですよ?」







忠告すると、あぐりは納得がいかないように、怪訝そうに眉をひそめた。







「譲はんも同じおなごやありまへんか?」