幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜









広間には、しかし朝餉の準備はされていなかった。










それどころか、多くの隊士たちが広間に集結していた。












皆、朝稽古の帰りだろうか汗臭い臭いが広間に充満しており、譲は一瞬たじろいだ。












中に入るのも気が憚られたので、広間の入り口にいることにする。










その間にも続々と広間に集まる隊士。








(何かあるのかしら)






考えを巡らせながら首を傾げていると、ふいに頭上に影がさしたかと思うと、上を見上げる暇もなく、頭をわしづかみにされていた。







それからくしゃくしゃとされ、乱れる髪。







頭が大きな手から解放されると、譲はさっそく髪を整えながら、髪を乱した張本人を睨む。








「朝から何するんですか……!左乃さん!」








だが左乃さんは面白半分に笑うだけで、謝る気はさらさらなさそうだった。








「何朝からしょげた顔してんだよ」







「別に、しょげてなんかいません。それより何ですか、この集まり」









くいっと顎を向けて広間を指すと、左乃さんはぽりぽりと人差し指で頬を掻く。










この反応を見る限り、この集まりの真相をどうやら左乃さんも知らないようだ。









「いや……しらねえな。俺はてっきり朝餉の時刻だと思ってたから、ここに来ただけだからな」










「そうか。二人とも、朝稽古に顔を出していなかったからな」







話に入り込んできたのは、ちょうど廊下を歩いてこちらに向かってきていた斎藤くんだった。








稽古をしていたのか、うっすらと額に汗が浮かんでいる。








「朝稽古で何かあったの?」








「そう。みんな広間に集まるようにって近藤さんが言ってたんだ。二人は、今朝は稽古の当番じゃなかったしね」







と答えを言ってくれたのは、斎藤君の後ろにいた総司だった。








おそらく、総司も稽古をしてきたのだろう。








総司はひょっこり顔をだすと、広間を覗く。







「うわあ……すごい熱気だね。入りたくないなー」







「だな。こんなむさくるしいところに入りたいと思わないぜ」










総司と左乃さんが意見をあわせる。








「いいじゃねえかこの熱気!俺は歓迎だぜ!」







「まあ、しんぱっつあんの存在が熱気みたいなもんだからな」








永倉のことを揶揄しながら、平助は軽口を叩く。






ふと、平助と目が合った。







朝のことが思い出されて、譲はもう一度、『ありがとう』と声には出さず、口の動きだけで伝えると、平助もそれに乗じて『いいんだよ』と返してくれた。







(……………)







総司がじっとこちらを見ていることも気がつかないで、譲は平助とやり取りをしていると、近藤さんと土方さん、山南さんが広間に顔をだした。









譲たちは入り口付近で正座をすると、話をきく耳を向ける。