ふっと肩の辺りで匂ったのは汗の匂い。
振り返ろうとすると両頬をつかまれ、無理やり振り向かせられる。
戸惑う譲をよそに、眼前には顔を真っ赤にした平助。
こちらまで何だか恥ずかしくなってくる。
平助らしくない行動に驚きながらも、譲は急に頬をつかまれたことにむっとして、上目遣いで平助を睨む。
「何するのよ」
またいつも通りの何気ない馬鹿なやりとりと期待していたのだが……。
「うるせえ」
いつもより大人びた低い声。
譲も顔を赤らめる。
「いいから、はやく部屋に戻って着替えろ。いつも通りに」
「はい……」
譲は思わず敬語で答えてしまう。
「ん。じゃあ早く部屋に戻れ。誰にも見つかるなよ」
「はい」
忠告をしかと聞き入れ、譲は避けるように平助から離れると、急ぎ足で平助の部屋を出る。
(……どうしたんだろう……平助)
譲は自分の胸に手を当てた。
心臓が脈を打つのがにわかに早くなっている。見慣れない態度の平助を見たからだろうか。
譲は一度だけ平助の部屋を見、着替えるために自室に戻った。

