周りに気配をふりまくことなく、警戒もしないでとぼとぼと呑気に井戸へ向かう。
今日は本当に気分が悪い。
譲は井戸から水を汲むと手元にあった桶に水を入れ、嫌な夢を振り払うようにばしゃばしゃと顔を洗う。
夏の蒸し暑い陽気に冷たい水が肌に心地よく、少しばかり、気持ちがすっきり気がした。
ふうと一息つき、手拭いで顔を拭いていると……、じゃりっと草履が砂利と草を踏む音が聞こえた。
譲はすぐさま振り向き気付いたが、時すでに遅し、であった。
「ゆ……譲!!!???」
動揺しまくりの平助が慌しく言葉を紡ぐ。
目の前にいる自分の姿が信じられないのか、何度も目を瞬(しばた)かせている。
しかし、一方の譲は、背後に来たのが既に見知った仲の、しかも試衛館仲間だったためにすぐに警戒心を解く。
肩の力を抜き、平助の様子を見る。
平助は額や首筋に汗を浮かべていた。きっと、朝稽古をしていたのだろう。汗を拭きに来たというわけだ。
「なんだ……平助か。稽古お疲れ様」
「お………おう」
だが平助は顔をそらしたまま、ぶっきらぼうにそう言い放つだけだった。
「どうしたの?具合悪いの?」
譲が心配そうに眉をひそめながら、平助の顔をのぞきこむ。
平助はただ顔を逸らし続けるだけだった。
「お……お前、自分がどんな姿かわかってんのか!?」

