幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜








しばらくして、譲の逃亡に気がついた土方さんが鬼のような形相で追いかけてきた。






譲も全力疾走で逃げようとする。








「くっそ、総司も行きやがったのが!あいつに渡させてたまるか!」






そう叫びながら、いい年した大人が走ってくる。容赦なしで。顔が必死だった。









譲は自分の部屋に入ると、文机の上に置いてあった土方さんの句集を素早く手に取り、柱を登って屋根の上にたどり着く。






既に総司がそこにいた。







二人は息を殺して、気配を消す。







やがて土方さんが廊下にやってくる。






「畜生……!あいつ、どこ行きやがった!」







そう言って、土方さんの足音がどんどん遠ざかっていく。







真上にいるのにね、と互いに笑い合いながら、譲は早速総司に句集を手渡す。









「これが、あの土方さんが書いた句集?」






「そう。まあ説明するより見たほうが早いから、とりあえず見て」








総司も悪い意味で目をきらきらさせて、句集をぺらぺらとめくっていく。






そしてまもなく、総司が腹を抱えて爆笑した。





「ぷっ……ははっ!あっははは!!」






信じられないと、総司はまじましと句集を見入る。







「何これ……っ!!下手くそにも限度というものが……!」







総司の笑みにつられて、譲も一緒に笑い声を上げる。







「【水音に添(い)てききけり川千鳥】って………」










「だからどうしたのって話でしょ!?」









「まったくそうだよ!!浅すぎでしょ!!」











「これも見て!」







なになにと譲が指差した句集を総司が声を出して読み上げる。









「【春の草五色までは覚えけり】って……やっぱり土方さんって馬鹿だったんだなあ」








「でも私が一番面白いと思ったのがこれ!」







「【梅の花一輪咲てもうめはうめ】って…………もう見たまんま、聞いたまんまじゃない!これ書いて、どうしたかったんだろう!!!もう最高!」









「「はははっ!!」」







久しぶりに心から笑いあう二人。






しかし、そんな時もつかの間。






どこからともなく怒号が飛んできた。







「総司!!譲!!てめえら降りてきやがれ!!」










庭には土方さんがいた。






譲と総司は顔を見合わせる。







「これは僕がもらっておくね」






「じゃあ、二手に分かれよう!」








そう言って二人は土方さんがいる反対方向に身軽に屋根から飛び降りると、散り散りになって逃げ出した。












「あっ!こら、待ちやがれ!!」