そして平助の言うとおり、今日の朝餉は実に静かで、平和だった。
静かにこうしてまともに食事をすることに感動して、平助はご飯をかみ締めるように口に頬張っているし、みんな口には出さないけれど、なんだかとても温かい雰囲気だった。
それぞれにこの平穏の時をしみじみと感じ、食事を終えようとしていたが、こちらに近付く大股に歩く足音が、そのいい雰囲気をぶち壊しにする。
血相変えて広間の障子を勢いよく開けたのは、土方さんだった。
何だかとても焦っているというか、慌てていた。
土方さんは、近藤さんを睥睨する。
「近藤さん……あれ知らねえか?」
近藤さんが口から箸を話す。
「あれ……とは?」
土方さんは【あれ】の正体をはっきりと言いたくなさそうだった。
そんな土方さんに、譲は必死に笑いを堪えようとする。食べたものが出てきそうだった。
そして、目聡い土方さんは、そんな譲を一瞥する。
「おい、何だ譲」
名前を呼ばれても、譲の笑いの発作はまるで病気のように止まらなかった。
身体を丸めて、お腹を押さえる。何とか、声だけは抑えないと。
「もしかして………てめえ……」
「何ですか?」
笑いの余韻を残したまま、譲はあくまでも白を切る。
土方さんの眉間がぴくぴくと動く。
「惚けるんじゃねえ。さっさとあれを返しやがれ!」
「だーかーらー、私って鈍いんですよねえ。だから、【あれ】とだけ言われても、わからないんですよ」
もちろん、真っ赤な嘘である。
だが一向に譲が態度を改めないため、これ以上恥をかかないように思ったのか、土方さんが観念したように言う。
「だから………く……句集だよ!俺の句集!」
もうどうにでもなれと投げやりに言葉を吐く土方さんに、ついに譲はたまらなくなりばんばんと畳を叩く。
そして盛大に笑い声を上げる。
「まさに土方さんの心境は、【人の世のものとは見へぬ桜の花】ですね!俳句を読まれて、ここが現実世界だと思えない土方さんの心境にぴったりです!」
土方さんの拳がわななく。
もちろん、それを承知で譲は明るく振舞う。
「そんな私は【手のひらを硯にやせん春の山】ですかね。土方さんの句集に出会えて本当に良かったです。感動しました。違う意味で」
あっさり自分が句集を持っていることを公言すると、土方さんの堪忍袋の緒が切れた。
「譲……てめえ……今日という今日は許さねえぞ!」
「トシ!そんな目くじらをたてんでも……」
「あ!?あんた何言ってんだ。こいつの腹黒さを、見てなかったのか!?仮にもあんたの養女だろうが!」
「何を言うか!譲は素晴らしい娘だぞ」
近藤さんが庇ってくれている間に、譲はとんとんと総司の肩をつつく。
総司もその合図で悪戯な笑みを浮かべながら、二人はこくんと相槌を打った。
「私の部屋があるところらんへんの屋根の上に上って待ってて」
「分かった」
小声でそう言い合うと、二人はこっそりと広間を後にした。

