幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜







部屋に案内されと、今晩はここでゆっくりしろと、おかあさんが言って出て行った。







改めて、譲は花緒に向き直る。







よく見ると、ほんとに可愛らしい娘だった。






「ねえ、花緒。私と一緒にいる時は廓詞は禁止ね」





「え」








驚いたように譲を見上げる花緒。






まあ当然の反応だ。色町にいる娘は、貧しい農民や商人から売られてきた娘だ。身分を隠すために、全員が廓詞を使うように叩き込まれる。





故郷の言葉は忘れろと。








花緒は嬉しそうに笑った。








周りに陽がさしたような明るい笑顔だった。






「あと、私の名前は譲。あなたの………本当の名前は?」







そして、自分の名前は決して客の前では言ってはならない。









自分の名は、この花柳界に足を踏み入れた瞬間から捨てねばならない。









残酷だが、これが花柳界の現実だった。








でもせめて……と、譲は自分の傍にいる花緒だけは囚われているしがらみから少し自由にしてあげたいと思う。







「私は………お波といいます」






独特の喋り方である廓詞が早速抜けていることに譲は満足する。







「私も、至らないところが多々あると思うけど、よろしくね、お波」








「はい!」








二人は確かに、距離を縮めた。