幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜










譲の身体に衝撃が走る。







なぜ、そのことを知っているんだろう。







不思議そうな顔をしていると、予想通りというように、おかあさんは笑った。










「やっぱり、あんさんがあの吉原の胡弓姫でしたか。随分こちらにもその冴えます美貌、音色の美しさは耳に届いております」








譲は恥ずかしくて赤面する。さすが、色町はこういう話が流れるのが早い。







恐るべし色町。







「そんなあんさんを、ただの芸者にするわけありまへんやろ? 位は天神に置きます」





て………天神!?







太夫の次の位、二番目の位でもあるのが天神だ。








「…………」







譲はついに言葉がでなかった。








そんな面白い反応を見せる譲に微笑みながら、おかあさんは娘を紹介する。







「この娘が、新造の花緒(かお)や」







花緒といわれた娘は恭しく頭を垂れる。








「うちは……花緒といいます。どうぞよろしゅう」








愛らしく、可愛らしい娘だった。






「私……あ………うちは譲………」







譲はそこまで言って話を切って考え込む。







色町では基本的には、本名を名乗らない。それぞれには与えられた色町で生きていくためだけの名があるのだ。もちろん、実風というのも芸名である。譲も芸名を与えられていた。






こくんと頷き、芸名を名乗ることにする。







「譲………ていうのは本当の名。芸名は……柚葉(ゆずは)。よろしゅうね、花緒」









すると、ぽっと花緒の頬が赤く染まった。






ああ、本当にお人形みたいで可愛い子だ、と譲は頷く。






「では柚葉、あんたの部屋を案内しますさかい。花緒、あんたもついといで」