「おこしや………」
番頭がそう言葉を切ったのは無理もない。
なぜなら、そこにいたのは客である男ではなく、女だったから。
番頭は驚きを隠せず、探るような目つきでこちらを睨んできたが、譲は臆することもなく、懐から文を取り出す。
恐る恐るそれを両手で受け取った番頭は、文の筆跡が誰の者であるかを見て、さらに目の色を変える。
驚きを通り越した眼差しで、男は譲に声をかける。
「これは、わいにどうこうできることやありまへん。こっちへどうぞ」
京らしい少し抑揚のある言葉遣いに違和感を覚えながらも、譲は番頭のあとについていった。

