譲は決心したように唇を結び、まず、三人が完全に暖簾をくぐり、店に入ったことを確認する。
こうなったら、なりふりなど構っていられない。
もし出くわしたときは、いかにも他人のふりをすればいい。
絶対に、正体はばれると思うが。もう、そこは無視するしかない。
自分は今、京の町娘。淑女でたおやかやなる京の娘。
何度も何度も心の中で自分に言い聞かせ、譲は街道に出る。
自分はちょっと貧乏な町娘。病気の母を治すためのお金を稼ぐために、ここに決死の思いできた哀れな娘。
頭の中がこの言葉で埋め尽くされるようになった頃、譲は角屋の暖簾をくぐった。

