私は裏口まで戻ってきた。

けどどこにも春樹の気配がない。

「春樹……どこ……?」

私が辺りをキョロキョロと見渡していると……

「春樹ー!!これ頼む!!」

春樹を呼ぶ声がした。

「はーい、今行きまーす」

変わってない低いのに綺麗で透き通っている声。

もう近くにあなたはいる……!!

早く……会いたいよ……!!

そう思った時ゆっくりドアから出てきた一人の人。

その一つ一つの行動がスローに見える。

長い髪……高い背……タンクトップから見える筋肉がたくさんついている腕……。

「春樹!!」

私はその場で叫んだ。

その瞬間彼の体がピクッと反応する。

「春樹!!」

もう一度彼を呼ぶ。

お願い……気づいて……!!

ゆっくりと振り向く彼。

私をしっかりと見ている。

私はサングラスを取った。

今日……いつもよりオシャレしたんだよ?

会いたくて……会いたくて……少しでもドキドキして欲しくて……変装だってサングラスしかしてないよ……?

そのせいでNANAってバレちゃったけど……

でも……私はそれでもあなたに気づいて欲しくて……メイクだってメイクさんに教えてもらって……髪だって明るく染め直して……編み込みにしてもらったんだよ……?

私だよ……?

わかる……?

「……奈未?」

この声で私の名前を呼んで欲しかった……。

これを……私は5年間求めていた……。

あなたに名前を呼ばれたくて……芸名だってNAMIにする予定だったけど……あなたの声で呼んでもらえないからってわざとNANAにしたの……。

それくらい……あなたに呼んで欲しかった……私の名前……。

「……春樹……!!」

私は勢い良く走り出した。

ヒールなんてこと忘れて思いっきり走った。

あなたに近づきたくて……あなたに触れたくて……私は無我夢中で走った。