「記憶障害……だとよ……」

あまりにショックを受けてロビーの椅子に黙ってもたれかかっていると竜基さんが俺にそう言ってきた。

記憶障害……

テレビの中の話だと思っていたのに……現実は甘くない。

そんな思い込みをしているからもっと奈未を傷つけているんだ……。

俺はいつもそう……自分から逃げている……。

「今の奈未は中学生だ」
「え?」
「今の奈未は自分を中2だと思っている。だからその先の記憶がないらしい」

……っことは……

「俺だけじゃなくて……咲羅や夏恋のことも……」
「きっとな……だからあまり連れてこないほうがいいぞ?……特にモデルの子」
「え……?」

何で咲羅だけ……。

「モデルって仕事は毎日が演技のようなものだ。今の奈未を見たらしばらく立ち直れないだろう……お前もバスケ休め」
「……っ!!何言ってるんですか!!俺はバスケやりま「怪我したらどうする?」

怪我……。

「お前はこれから活躍出来る年なんだ……そんな奴が怪我したらどうする?お前の人生終わりだ。何よりそんなお前で客を楽しませることが出来ないだろ?……だから休め……俺も3日は休む」

竜基さん……いろいろ考えてくれてるんだ……。

「すいません……ありがとうございます」

竜基さんに深くお辞儀をした。

「あぁ……」

竜基さんは俺の横にちょこんと座った。

「すいません……奈未のこと……傷つけて……」
「別に誰のせいでもない。運が悪かっただけだ」

竜基さんは俺の頭をそっと撫でてくれた。

「俺はお前を攻めない。絶対に……」

そんな言葉に自然と涙が出てきた。

「何で竜基さんは俺のこと攻めないんですか?」

攻めてもらったほうが虚しくならないのに……。

「前に奈未が言ってんだ……春樹は何があっても私のそばにいるってな……だからお前はあの時もそばにいたんだろ?だから今回はしょうがないって事だ」
「……やめて下さいよ……俺……ダメな彼氏なんですよ……」

俺はその場で泣き崩れた。

こんなに泣いたのは生まれて初めてかもしれない。

竜基さんはそんな俺を黙って頭を撫で続けてくれた。

「でも気をつけろよ?」
「え?」
「この時期は奈未と海斗両思いだぞ?」

二人が両思い……。

「今はつらい思いをするかもしれない。でも記憶は戻るって信じてろ」

竜基さんの意味はよくわかんなかったけど
やっぱり現実は甘くない。

俺に沢山試練を用意してくるんだ……。