車の中に入ってると若い執事はドアをゆっくりと閉めた。

ドアを閉めると真っ暗でシーンという空気に包まれる。

「……っ……」

そんなことを思っていると後ろから微かに声がした。

「……奈未か?」

そう聞くが返事は返って来ない。

もし奈未だとしたら俺にこんな姿見て欲しくないとでも思って必死にこらえてるんだろう……。

俺は後ろの席に向かい人影がある隣に座った。

「奈未?」

話し掛けるとそれがピクッと動く。

……間違いない……。

俺はそう思って暗い室内の電気を付けた。

「……え?」

やっぱり奈未だった……。

奈未はそんな声を漏らしながらも顔を体にうずくませて俺に顔を見せようとしない。

「奈未……顔上げて?」

そんな言葉奈未は聞かない。

つか、この会話……昨日もしたな……。

「奈未……」

俺は奈未の顔をゆっくりと上げる。

すると奈未の顔には涙の跡と沢山の涙を溜めている目が俺を捕らえる。

……やっぱりか……。

「どうしたんだよ奈未……」

俺は優しくそう奈未に質問してから力強くギュッと抱きしめた。

「う″ー……っごめん……ごめんね……春樹……っっ……」
「わかったから……」

弱々しく体を震わせている奈未の頭をポンと優しく撫でる。

「っ……私ね……?春樹に……謝りたいんだ……」
「え……?」

奈未の口から出た意外な言葉に俺は驚いた。

すると奈未は俺からスッと離れて

「ごめんなさい……私が……春樹のこと怪我させた……」

そういって頭を深々と下げた。

「は……?」
「私があの時もう少しこのままがいいなんて言わなかったら……春樹……ちゃんとウォーミングアップとか出来たでしょ……?……なのに……」

奈未の目からは沢山の涙が下に落ちていく。

ったく……こいつ……

「そんなこと考えてた訳?」
「え……?」

奈未は俺の言葉で頭を上げる。

「俺奈未のせいなんて一回も思ってねーから」
「……嘘……」
「嘘じゃねー、しかも今回の怪我は俺がダンクした勢いで壁にぶつかって立ち上がったら下にボールがあってそこで思いっきり足やっちゃった訳」
「……へ?」
「俺がただドジっなだけでしかもこけた時にすっげー音鳴ったから大袈裟になっただけ。まぁ、ねんざがあんなに痛いとは思わなかったけど……骨折れたかと思った……って何泣いてんだよ……」

気がつくと奈未はさっき以上に目を腫らせて泣いている。

「マジで奈未の涙には弱いから泣くなって……」

俺は奈未の大量の涙をそっと拭いてあげる。

「ごめん……何か安心しちゃって……」
「ったく……お前マジでかわいい」
「へ……?キャ!!」

俺は奈未を後ろから抱きしめる。

「ちょ、春樹!!」
「キスしてやろっか?」
「し、しなーーーい!!」

奈未の目にはもう涙は浮かんでなかった。