「はよ」
「何だ春樹か……はよ」
「何だって何だよ」
「別に……」

複雑そうにうつむく咲羅。

「奈未だったらよかったんだけどな……」

咲羅はボソッと聞こえるか聞こえない声で呟いた。

「奈未じゃなくて悪かったな……」
「別にそういう訳じゃない、今日奈未まだ来てねーんだよ」

そういわれて奈未の机に目を向けても奈未はいない。

「もしかしたら今日来ないかもな……」

咲羅が悲しそうにまゆを下げる。

「……」
「何で聞いてこねーんだよ」
「え……?」
「本当は奈未のこと知りたいんだろ?」
「……は?何奈未のことって……」
「とぼけんな、知ってんだよ奈未が泣いてる時にお前が隠れて聞いてたの」
「……知ってんならわかるだろ?」

俺は乱暴に机に鞄を置いて椅子にドカッと座った。

「知りたくないのか?」
「ちげーよ……奈未が来ないってことは相当深刻なんだろ?だったら無理に聞くのも可笑しいだろ?それに自然に言ってくれるのを待ってるほうがいいし……」
「……春樹になら教えてもいいんじゃねーの?」
「は……?」

俺は今天の声が聞こえた気がした。

「教えてやるよ……いや、教えなきゃダメだと思う……」

そういって咲羅はいきなりムクッと立ち上がった。

「咲羅……?」
「着いて来いよ、教えるから」

俺は無言で咲羅に着いていった。