「海鈴さん…」

「いのり…」

だけど、なんでだろう。こんなに満たされているのに、なにかとても大切な事がある気がする。それがなにかはよくわからない。なにか、固く頑丈なものがそれを塞いでいて、思いだせない。

とても、大切ななにか…。わからない。

それが、とても暖かいものだと言うのは分かるのに…かわらない。

思いだしそうでも、すぐに奥深くに眠ってしまう。きっと、これは思いだしてはいけないものなのかもしれない。そう思うと、また、私はその事を忘れてしまう。

























「いのり…幸せになれよ」

「…え?」

その時、耳を掠めた声に海鈴さんを見下ろす。

「どうかした?」

「あ……いえ」

いま…誰かに呼ばれたような…。振り返っても、空をみてもそこには誰もいない。

気のせい…か。そうだよね。ここには、私達しかいないんだ。

「なんでも、ありません」
「そっか」



だけど、その最後に聞えた言葉はとても暖かかった。















to be end