少し緊張しながらも、勇気を出して柚の部屋の扉をノックする。
「...お母さん?」
懐かしい声が聞こえた。
余り声は覚えてなかったが、それでも柊にはわかった。
柚だ、と。
「...ううん、違うよ。」
瞬間、柚の声質が変わった。
「...誰」
警戒心丸出しだなぁ、なんてのんきに思った。
「柊だよ。椎名柊(シイナ ヒイラギ)。覚えてない?」
「...ひい、らぎ?」
柚は、もしかして、と思った。
父親に虐待される前。
仲良かった女の子。
最近、あの時いつも一緒にいた子の名前はなんだったかな、と思っていた柚は、名前を聞いたときにハッとした。
そうだ。柊だ。あの子の名前は。
「...柊?本当に、柊?」
「そうだよ。柚、覚えてる?」
柚。柚。柚。
そう言ってよくくっついてきた柊。
たまに私もくっついていたっけな。
「覚えてるよ。...ドア、開けていい?」
「それはこっちの台詞だよ。早く顔みたい!」
ドキドキ。ドキドキ。
二人とも、緊張していた。
「じゃ、じゃあ開けるね?」
「うん、いいよ」
柚が、ゆっくり、ドアを開けた。


