「…兄さん、あたし、学校転校しようと思うの」




気持ちが落ち着いたころ、そう切り出した。




「…転校?どこへだ?」

「まだ決めてない。兄さんが海外に行ってもあの二人はあたしのことは何も気にしない。だから、あの二人の息のかかってない学校に行きたいの」




(そう、あの二人はあたしが家の名に傷を付けるようなことをしない限り、何をしても何も言わない。あたしなんて、眼中にないから……)




兄さんの腕の中から抜け出して兄さんを見上げた。
思案している様子の兄さんは、眉間に皺を寄せていた。




しばらくそうしていて、兄さんは口を開いた。




「俺の親友が教師をしてる学校がある。そこなら俺も安心出来る」

「ありがとう兄さん!」

「だが、あそこは元男子校で不良が多いって聞く。気を付けろよ?」




喜ぶあたしを見ながら兄さんは心配そうに見ていた。




「わかってるよ!」




あたしは嬉しくて兄さんに抱きついた。




◇◆◇◆◇◆




桜が葉桜に変わった5月のある日。




あたしは兄さんがパリに行くのを空港で見送ったあと、兄さんの親友が教師をしている鳴皇-メイオウ-高校がある街に兄さんの名義でマンションの最上階を借りてそこに引っ越した。