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「…兄さん、パリに行くって本当なの?」

「朔妃…。」




荷造りをしている兄さんの部屋に入ってきたあたしに、兄さんは困ったように笑って頷いた。

「…どれくらい?」

「最低でも1年は向こうだ」

「そっか…」




(一年…。一年も兄さんと離れ離れになるの…?そんなの嫌だよ…)




1年という言葉を聞いて俯いたあたしは、涙を流さないようにするのに必死だった。
寂しくて、独りになる気がして涙が溢れてきた。




涙が零れそうになったとき、ふわりと、兄さんの付けている爽やかな香水の匂いがした。




あたしは兄さんに抱き締められていた。




「ごめんな…。お前を、一人にさせてしまう…」

「…っ、ううん、お仕事ならしょうがないよ…」




あたしより7つ年上の兄さんは、早くも両親の会社の手伝いをしている。
だから、仕事で海外に行くのはしょうがないと思う。




(泣いてても兄さんは居なくなっちゃう…。なら、笑顔で見送ってあげなくちゃね)




「お土産、いっぱい送ってよね」

「あぁ」

「電話もして」

「あぁ」




我が儘を言うあたしの頭を兄さんは撫でる。
あたしはそれが落ち着く。