「舞姉大丈夫?」

「………………」


大丈夫な訳ないだろう。


ただでさえしんどい坂道を、後ろにお荷物のせて走ってるんだから。


「舞姉ってばー」

「うるさいいいから黙ってろ。喋ると体力消費するんだよっ」


大声で叫ぶと、その必死さに察したのか、悠人は大人しく黙り込んだ。


「…………何か、ごめん」

「分かってるなら、今度から早起きする努力をしろ」

「………………」


分かっている。

悠人がただ、朝が弱いだけで起きられない訳じゃないくらい。


ただ、それを理由に、悠人をいたわるのは違うと思った。

だから、敢えて悠人には難しいことを言った。





「…………舞姉、ありがと」


ポツリと後ろから聞こえた、悠人の声。

普段のふてぶてしさはなく、どちらかというと弱々しい、掠れた声だった。

思わず振り向こうとしたが、バランスを崩しそうなので止めておいた。


しかし悠人は私に顔を見られると思ったのか、言ったとたんに私のミルクティー色のカーディガンの背中に顔をうずめた。


昔よりずっと大きくなったのに、私のカバンの紐を掴む手は、何だか幼く見えた。


「…………別に。可愛い弟が罰を受けるのが、少しだけ可哀想だと思っただけだ」


私は前を向いて、朝の風に髪をなびかせなら、住宅街を走り抜けた。