for U〜名のない歌〜



ため息が出る。

「兄貴、」

佑月が、俺の部屋に入ってくる。

任せられる仕事は任せてくれていいからと、言ってくれた佑月に、たまに仕事を任せるため、薫と呼ぶのはまずいと叔父に言われ社長、もしくは兄貴と呼ばれるようになった。一応、藤本財閥は、会社を何個か、経営してるため、当主というより、社長という方がしっくりくるのだ。

「入っていいぞ。」

「ひとやすみしたら?」

そう言って、お盆を持って入ってくる。

クッキーと紅茶。

「兄貴の好きなアールグレイだよ。」

俺はかけていた眼鏡を外す。

と言っても、スイッチを入れるための伊達眼鏡なのだが。

「ありがとう。どうせ、佑月のぶんもあるんだろ?」

「ばれたかー。」

いたずらっぽく笑って、真ん中のテーブルに盆を置く。

佑月の前にはコーヒー。

わざわざ、アールグレイを入れてくれたんだとわかる。

佑月が、飲めないはずの紅茶を持って来るなんて、特別な時だけだ。

「最近元気ないよ。まぁ、ルナのことだろうけど。」

「一年は長すぎだろ?」

「とか言って、他の女に手を出さずに待ってるじゃん。」

からかうなよと、佑月にゲンコツを落とす。

俺にとってルナ以外の女は女に見えないんだ。