「すまなかったね。わざわざ来てもらって。」

Carmen社長は、申し訳なさそうに言うけど、むしろ、俺は来てよかったと思う。

ルナに会えるそれだけで、俺は嬉しくなるし、それだけで、俺は、バンドをやっててよかったって思える。

「昨日歌ってもらったんだ。そしたら、君の花をピアノで弾きながら歌ったんだ。あと、薫、という作った曲も。」

薫……!

俺の、なまえ。

だから、驚いた顔をしたのだろうか?

いや、違う気がする、

驚いた顔じゃなかった。

あの顔は驚いた顔じゃない。

控えめなノックの音がする。

「どうぞ。」

「旦那様!ルネお嬢様が、足を滑らせて階段から……!」

途端にみんなの顔が青ざめる。

俺は、途端に走り出した。

「階段の場所はどこですか?」

「あちらです。」

俺の問いに答えながら、メイドさんが着いてくる。

「ルナ!」

ぐったりと横たわったルナを抱き上げる。

「ルナの部屋に運びます。部屋の場所を教えていただけますか?」

俺は着いてきたメイドさんに聞く、

「えぇ。こちらです。」

俺はメイドさんの後ろをただ黙ってついて行った。

階段を上がって、右に曲がり、突き当たりまで行く。

「ここです。」

鍵を開けてもらって入った部屋は、ルナらしい部屋だった。

楽器が置いてある。

ルナは記憶がなくなってもルナなんだなと思う。

「寝かせておきます。あとは頼めますか?」

寝ているルナの元で演奏したいだなんて、俺はおかしいのだろうか。

「もちろんです。ですが、ここで、ベースを弾こうなんていうのならばお断りします。」

「なぜ?」

俺は改めてそのメイドさんの顔を見る。

「!御堂律!」
「ボクのこと覚えてたんですね、嬉しいな。」

忘れるわけがない、苦手な人物との再会。