ミカエルさんは俺の視線に気づいて説明をする。
「彼は、ルナを守るためにあの場にいたんだ。腹違いとはいえ、兄は兄。だから、彼の悪事を止めるために。穂高グループの悪事をやめさせるために。」
そして、ミカエルさんはしゃがんで、棗に手を差し出す。
「君は、助けようとしてくれたんだ。顔を上げて。せっかく綺麗な顔をしているのに台無しだ。」
棗は泣きながら、頷いて、手をおいて、立ち上がる。
俺たちはただ、その様子を見て、
唖然とするしかなかった。
「ぁ、」
手術中のランプが消える。
「先生!ルナは、手術はどうなりましたか?」
「手術は成功しました。命に別状は、ありません。しかし、いつ目を覚ますか…わかりません。」
「そんな!」
美由の、泣き出しそうな声。
佑月は、それを支える。
「ルナともう、話せないんですか?ルナは笑わないんですか?ルナは…もう………」
俺の頭で言ってはいけないと思いながら、それでも勝手に口は動く。
「歌えないんですか…?」
ルナの歌声が好きだ。
ルナの笑顔が好きだ。
まだ何も伝えていないんだ。
「ただ眠っているだけですか。」
ミカエルさんは少し冷静だった。
「はい。」
医者の返事に、少し医者をにらみ、
携帯電話を取り出す。
「フランスに搬送する。ヘリを用意してくれ。」
「!」
「薫くんたちが、信じられないんじゃないんだ。君たちが、ルナにとらわれ続けるのはよくない。まだ若いんだから。」
その言葉に俺は、残り僅かの冷静さを失う。
「俺は、ルナじゃないと嫌です。ルナがいないとダメなんです。いつまでも待ちます。ルナがルナである限り、俺はルナしか好きにならない。」
言い切ってしまった。
本心なのに変わりはないけど、少し恥ずかしくも感じる。
「なら、ルナが起きたら連絡しよう。薫くん自身に。」
そう言って後ろを向く、ミカエルさん。
俺は伝えることがもう一つある。
なのに口は動かない。
「待ってください、」
佑月が、ミカエルさんに声を掛ける。
まだ、兄が言いたいことがあるそうです、と、ミカエルさんに言って俺を押し出す。
「え、ぁ、その、俺だけじゃないんです。ルナを待ってるのは、ここにいるメンバーはもちろんだし今日ライブに来てくれた人たちも、待ってます。ルナが帰ってくる日を。」
「ルナは幸せだ。こんなにも、たくさんの人に支えられている。ライブハウスには俺が、謝っておいた。向こうは、sky flyは、被害者だから気にしなくていいと言っていた。一応、全員でファンにもライブハウスにも、謝っておけとルネは、ルナは言うだろう。」
そう言って今度こそ、歩いて行った。


