ならば、彼はどうなのか。

薄暗い病院の中、割れた硝子の破片を踏み締めつつ、カタリナはそんな事を考えていた。

…その子が生まれたのは一ヶ月前の事だ。

普通に出会い、普通に愛し合い、普通に命を授かった一組の夫婦。

しかしその子が生まれてきた瞬間、母親は発狂死した。

産婦人科医は異常な状況に戦慄する。

その子が最初に胎内から出てきたのは、『右腕から』だった。

逆子でもなく、頭からの出産でもなく、まず異常に長い右腕が胎内から出てくる。

長い産婦人科医の経験の中でも、こんな経験は初めてだったという。