恋するマジックアワー


「すっげえ雨だな。すぐそこだったけどめちゃくちゃ濡れた」


……な……なっ……


わたしの手を離れたペットボトルが、洸さんの口へ運ばれる。

茫然と見上げるあたしの目の前で、『うみ』と書かれたミネラルウォーターがどんどん飲み干されてく。

ゴクゴクって音と、それと一緒に上下する喉仏。



「……」



ほとんど飲み干した洸さんは、残りをわたしに差し出しながら、唇に付いた水を手の甲でクイッと拭った。

「ん」なんて上目づかいで覗き込みながら……。


かああああって一気に頭に血が上る。

立ってるのもやっと。

目眩がして、泣きそうになった。



だって、さっきと一緒。

なんでもない事のように、わたしの名前が書かれたペットボトルの水を飲んだ。


わたしは、彼にとってほんとにただの同居人で。
気にするほどでもなくて。

意識なんてこれっぽっちもしてなくて。


ただの、迷惑な……。



でも……それでも…………。

こんなのヒドイ……。



「こ……」


薄暗い部屋。

どしゃ降りの雨と、ピカピカ稲光。


洸さんは「なに?」と体を折り曲げて、わざわざあたしの声を聞き取ろうと顔を寄せる。



「洸さんのあほ! 無神経っ!」



ガバッと顔を上げると、耳元でそう叫んでわたしは自分の部屋に飛び込んだ。



もうっ

もう、なんなの……ほんと、最悪……。