「……」


いた。
ちゃんといた。

もう美術室に住んでるんですかってレベルで期待を裏切らないな。


絵の具で汚れた机に突っ伏した洸さんの背中に、少しずつ距離を詰める。
大きな窓から差し込む朝の澄んだ日差しが、まるで光のカーテンみたいで

画材が乱雑に置かれた、小さなこの教室を幻想的に映していた。

それはあたしの思考を鈍らせるには、十分すぎた。


「洸さん?」


小さく呼びかけたあたしの声は、まどろみの中に溶けてしまったようで。
洸さんはピクリとも反応しない。
それどころか、その肩は気持ち良さそうに一定のリズムで上下していた。


……あれ、寝てる?

なーんだ。
じゃあ、ちょっとだけ入っちゃお。

平気、だよね?

そっと近づいて、息を殺して。
その顔を覗き込んだ。


ふふッ、なんだか凄くイケナイ事してるみたい。
こっそり寝顔を見るなんて……。

どれどれ、イケメンはどんな崩れた寝顔してんですかね?


ヒョイっと覗き込むと、洸さんの顔に影が落ちた。


「……」