恋するマジックアワー



「……」


薄暗いマンションの階段を上がる。



雨はさっきよりも、雨脚を強くしたようだ。

ザアアアって、屋根や地面、草木に打ち付けるその音以外、何も聞こえない。



カラン
 コロン



コンクリの階段に響くその音は、雨のせいで少しくぐもって聞こえた。


肌に張り付く浴衣が気持ち悪い。

せっかくアップにした髪も、もうきっとグチャグチャ。


さっきはまるで宝石みたいにキラキラしていた金平糖も、今はその輝きを失ってただ虚しく袋の中で揺れていた。

雨、入ってないかな……。
こんなんじゃ、洸さんにあげられないや……。


せっかくあんな風に送り出してくれたのに。
こんな姿のわたし、見せたくないなんて……そう思ってる。


夕食が済めば、お互い部屋に入ってしまう。

だからきっと、今日も洸さんはすでに自分の部屋にいるだろう。


巾着から鍵を出して、なるべく静かに開けた。

家の中の様子を伺うと、真っ暗で、案の定シンとしていた。



よかった……。



ホッとしたその時だった。




「―――海ちゃん?」



……!



突然背後で声がして、思わず肩がビクリと震えた。


そっと振り返ると、そこには濡れた傘を手にした洸さんの姿があった。