聞こえなくてもいいのに……
聞こえてしまう。
こんなにザワザワした場所でも、はっきりとわたしに届く、低い声。
「……好きだよ」
ドクンって胸が軋む。
わたしの場所からは、牧野の顔は見えない。
それだけが、救い。
それから、表情一つかえない留美子が、同じように低く言った。
「わたしも……スキ」
ああ……来た。
わかってたつもりだった……。
どこからどう見ても、ふたりは相思相愛。
付き合っていなかったのが、おかしかった。
どうして
なんでって。
はやくふたりの幸せな姿を目の当たりにすれば、きっとわたしは……。
……この想いに、名前を付けずにいられるって……。
でも違った。
「……っ」
名前も付けていなかったはずの想いが、今、心の中に落ちてくる。
ああ……わたし、牧野が好きだった。
好きだったんだ……。
どうして今になって、そうだと思うのだろう。
もっとはやく気づいていたら、この気持ちを大事にしてたら、わたしは変わっていたのかもしれない。
でもね。牧野が好きな気持ちよりも、わたしは大事な友達をとった。
留美子に幸せになって欲しかったんだ……。
頬に伝うのは、これはきっと空から降り注ぐ雨。
わたしは、いつもと何も変わらない。
かわらないんだよ……なにひとつ。
かわっていくのは、あのふたり。
進んでいくのは、留美子と牧野。
わたしは、降りしきる雨の中、金平糖を握りしめその場から動き出せずにいた。



