「わあ、すっごい人だね」
「うわ、ここに行くの?」
すごく楽しそうな留美子の声と、すごく面倒くさそうな牧野の声。
その両方を聞きながら、あたしは気合いを入れた。
……大丈夫、大丈夫。平気。よし。
自分に言い聞かせると、人でごった返している神社の境内に向かった。
そこは地元の小さな神社で、古い鳥居をくぐると、本堂まで伸びた石畳を挟んで所狭しと露店が並んでいた。
綿あめに、イカ焼きに、ベビーカステラ。
もんじゃに、ヨーヨー釣りに、型抜きまであった。
薄暗くなった神社を照らすのは、赤提灯。
それぞれに、難しい漢字が書いてあった。
楽しそうな笑い声。
子供のお菓子をねだる声。
元気な店主たちの声。
まさに、縁日。
ここまで来るのに、浴衣の袖から吹き込む風が少し肌寒いと感じたけど、それも一気に吹き飛んだ。
「あ、ねぇ海ちゃん。あれやらない?」
「どれ?」
クイッと腕をひかれて、留美子は楽しそうに指差した。
それは射的だった。
いくつも台に並べられてるものは、きっと普段見たらどうでもよさそうなものだけど、縁日で見ると特別に感じるから不思議だった。
「翔、お金!」
「はあ?なんで俺が……」
なんてブツブツ言いながらもお金を出す牧野。
……すでに尻に敷かれている。
思わず吹き出しそうになってると、目の前に鉄砲が差し出された。
え?