恋するマジックアワー


バタンッ


勢いよく閉まった玄関扉の音が、思った以上に大きくて驚いた。

リビングに入ると、朝のコーヒーの香りがまだ残ってるようだ。

誰もいない家。
シンと静まり返っていて、時計の針の音だけが、やけに耳に付いた。

きっと、洸さんは今日も遅いんだろうな……。

ここんとこ帰ってくるのは、9時を過ぎることが多いくらいだったから。

パパは……。
パパは必ず夕飯には帰ってきてくれて、一緒にご飯食べてたっけ。


「……」


なんだか急に切なくなって、わたしはキッチンから窓へ視線を移した。


昨日より、少しだけ太陽が沈むのが早くなったみたい。

山並みの向こう側に、燃えるような太陽が名残惜しそうにその姿を見せていた。



……カラカラ


窓を開けると、ふわりと風が滑り込んできた。
昼間太陽で熱せられたアスファルトの空気を運んでくるその風中に、秋の匂いが混じっているみたい。


わたしはそれをスーッと吸い込んだ。



明日、牧野と留美子は付き合うことになるのかな。
胸がズキンと痛むのは、少なからず牧野に憧れみたいなものを抱いていたから。
それに……わたしの親友のいちばんが、わたしじゃなくなっちゃう寂しさ。

でも、それでいいんだ。
わたしはこの気持ちに「名前」を付けてこなかった。

だって、もとからあのふたりの間に割り込む気はないし。
この気持ちをふたりに伝える気も、さらさらない。


だけどね?

だけど、気持ちを切り替えるために
早くふたりが幸せになってくれたら……。



わたし、臆病者だな……。