一階の一番隅の教室。

その教室の窓際に立って、身動きせず何かをジッと見つめているその人影にわたしの興味は一気に持っていかれた。



たしかあの教室って……





「美術室……」

「え、なに?美術室?」


つぶやいたその時、いきなり視界に入ってきたのは、キャラメル色したボブだった。

顔を上げると、留美子がわたしの視線を追うように、空いた窓枠に身を乗り出したところだった。

そして、その人影を見つけると「ああ」ってその表情を緩めた。



「あれ、沙原先生(さはらせんせい)じゃーん」



え?

さ、さはら?……て。



違和感を感じつつ、またその教室に視線を向けた。

まだそこにいるその人影に、首を捻る。


「あんな先生、いたっけ?」

「いたよぉ。存在薄いけど。 あ、そっか。海ちゃんは部活入ってないから知らなくて当然かも。 沙原先生は美術部の顧問だよ?わたし家庭部だから教室近いし、よく廊下ですれ違うよ~」

「へ、へえ……」


さはらなんて名前、よくあるよね。うん。


真っ黒でぼさぼさの髪。

流れる前髪が、風にサラリと揺れる。

その顔には黒く縁取られた、なんだか時代遅れのメガネ。


……他人の、空似だよね。