恋するマジックアワー


気付かれないようにため息をつくと、牧野を見上げた。



「俺も課題ヤバくてさ。るみが持ってたから頼み込んで借りた」



借りたって……。

それ、留美子のじゃなくて、わたしのなんだけどな。


なんだか胸の中にちくりとしこりが大きくなったみたいで、わたしはそれをごまかすように口角を上げた。



「……ったく。高いんだからね」

「じゃあ立花の好きなレモンティおごる」



覚えてるんだ……わたしの好きなもの。



「……もう。冗談だよ。別にいいよ、ノート貸すくらい」

「天使かよ。まだ全部写せてねんだ。もうちょい借りててい?」



牧野は人懐っこい笑顔を見せて、まるでおねだりするみたいに小首を傾げて見せた。


その笑顔を直視できなくて、パッと顔を背けた。
これはきっと、夏のせいだけじゃない。

それは自分でもわかってる。



「いいけど」



それでもわたしはあえて素っ気なく言うと、履きかけだった靴のかかとを引っ掛けた。



「あ! 海ちゃん、おはよー」



その時、背中に小さな衝撃を受けて、柔らかな感触が腕にまとわりついた。

誰かなんて、これも顔を見なくてもわかった。