恋するマジックアワー



首を傾げたわたしに、洸さんは「あー…」と後ろ髪を掻き上げながらニコッと笑った。



「……道、慣れないだろうから。気を付けて」

「……はあ」


なぜか困ったような笑顔を向けられて、つられて困った返事しか出来なかった。


歯切れ悪いな。
変な洸さん。

昨日はズケズケと家賃払うの嫌だから、ここに住めみたいな事言ってたくせに。


ま、いいや。
ああ、早く行かないと!

履きなれた靴に足を突っ込んで、玄関を飛び出した。



瞬間、ムッとした熱気に包まれる。

9月に入ったものの、まだまだ残暑は厳しかった。





マンションのエントランスを出ると、すでに高い位置の太陽がわたしの肌を待ってましたとばかりに焼き始めた。


太陽の日差しは、好き。


だって、生きてるって感じがする。



わたしはうーんと両手を広げて、夏の空気を吸い込んだ。


パパ、もう起きたかな……。
真帆さんが一緒だもん、平気だよね?


今日も、真っ青な空が、キラキラと輝いている。

すぐそばのキンモクセイの木から、精一杯命を燃やす蝉の鳴き声が降り注いでいた。



「行ってきます」



わたしはもう一度空を仰いで、学校へと足を進めた。