ーーーカラカラカラ……パタン



保健室の扉が静かに閉まる。
と、同時に張り付けていた笑顔が落ちていくのを感じた。



「はぁーー………」



力なく眼鏡を外して、そのままうなだれた。
ふたつの足音はあっという間に遠ざかっていく。



なにをしてんだ俺は……。
あんなふうに引き留めてどうしたいんだよ。


口元を覆っていた手で、長い前髪をくしゃりと持ち上げる。

開け放った窓からやわらかな風が白いカーテンを揺らし、頬を撫でる。
緑の匂いがする。


頭が、おかしくなりそうだった。
感情を抑えられなかった。
行かせたくないと、そう思ってしまった。

胸の奥底からじわりと湧き上がるこの感情に、覚えがないわけじゃない。

わかってる。
わかっているから、余計にやっかいなんだ。


高校生男子相手に、大人げなく妬いてしまった。
あの男子はあからさまな好意を海に見せていた。
彼女が気づいているかどうかはわからない。

けど、前に誰かが言ってなかったか?
去年海ちゃんに告白したやつがいたって。

そいつの名前が確か……。



「あいつか……」


いや、だからなんだ。
俺はこの学校の講師。彼女はその生徒だ。

姉さんから預かってる大事な()

そもそもこんな感情になること自体間違ってる。


だけど……。


「……」



真っ白なシーツの上に、処置道具。
それを手にしながら思い返すのは、素直に両脚を差し出す海の姿。

真っ黒な髪を結い上げて、チラチラとおくれ毛が風に揺れていて。
なんていうかものすごく、無防備だ。

あんなの目の前に見せられて、
黙って手当をした俺を褒めてもらいたいくらいだわ。





「くそ……」


俺は子供(ガキ)かよ。