その日の帰り。
美術準備室から三嶋と海ちゃんが見えた。

少しだけ距離を開けて歩くふたり。
三嶋の自転車のかごに海ちゃんのバッグが収まっているのを見るに、一緒に帰るのだろう。



「…………」




まただ。
胸の奥底から湧き上がる、この黒い感情はどうしたら消えるんだ。


「……勘弁してくれ」


窓から背を向けて、白い布がかけてあるキャンパスの前に座る。





俺は、彼女を傷つけてばかりだ。
『告白』も聞けなかった。



ーー妹?
なにが妹だよ。

そんなこと、思ったこと一度もないじゃないか。
もし、彼女が生徒でなければ。
俺はどうしてた?
ただの同居人を願ってるのは、俺の方だ。



海ちゃんが俺を吹っ切ろうとしてるのも、わかってる。

そうだ。
それでいい。

海ちゃんも、俺なんかを見てないほうがいい。
年相応の恋愛をして、今を楽しむべきだ。
俺が、彼女の中に入り込むべきじゃない。


頭では、理解している。
―――……しているのに。



「……はあ」


油絵の匂いが肺を満たす。
目の前のキャンパスを見つめ、それから宙を仰いだ。