見上げるとベッドのすぐそばの椅子に座った洸さんがいて……。
「起きたついでに消毒するから、膝を見せてください。 あと肘もな」
「あ、うん……」
洸さんはそう言うと、仕切りのカーテンを開けて光を取り込んだ。
眩い初夏の日差しが、生い茂った桜の木々越しに窓から降り注ぐ。
光のストロボが木漏れ日となって、洸さんを照らした。
寝ぐせだらけの髪の毛が、淡く色を変え七色に輝く。
長い前髪に隠れていた眼鏡の奥の瞳があらわになった。
「………」
脱脂綿を持った洸さんが、優しく傷口に触れた。
「っ」
「……痛い? ちょっとだけ我慢してな」
「ん」
痛くなんてない。
感覚なんてどこかに行ってしまった。
だって、洸さんに見られてる。
こんなに至近距離で……。
絶対に意識しないって、無心になるんだってそう決めてるのに。
こんなの無理すぎるよ。
ああ、神様。
これは試練ですね……。
頭の中とは裏腹に、頬がじわじわ熱くなる。
口の中の水分、全部飛んでっちゃったみたいでゴクリと唾を無理やり飲み込んだ。
かがんだ洸さんのつむじが見える。
丁寧に消毒をして絆創膏を貼る洸さんの長くてキレイな指先を目で追ってしまう。
膝、肘。
そして……。
「なに泣きそうになってんの。 そんなにしみた?」
「……痛いに決まってるじゃん」
「だな。ごめん。 これでよし、と」
「んっ」
最後におでこにぺチっと絆創膏が貼られたかと思うと、洸さんはその表情を崩した。
「でも、ボールが当たったのにこのくらいで済んでよかったな」
「よくないっ」
「……ごめん」
よかったなんて言う洸さんの言葉に食い気味で反論する。
ふくれっ面になったわたしに、洸さんは遠慮なく手を伸ばした。
そのまま髪に触れ、リボンを結びなおしてくれた。
「その髪。かわいいね」
「…………」
……本当、なんなの?
そんなふうに無邪気な顔して、なんなのよ。
ナチュラルに可愛いとか言うんじゃない!
気を抜くとときめいちゃうじゃん。
と、その時保健室の扉が開いた気配がした。



