今でも鮮明に覚えてる。
熱で浮かされた洸さんの潤んだ瞳と、首筋にかかった荒い息。
不可抗力で、あの時の事を洸さんが覚えてなかったとしても……。
きっとわたし、一生忘れないんだろうな……。
はあ……。
ギュッとドアノブを握りしめて、一気に扉を開けた。
瞬間香る、洸さんの匂い。
シトラスと、コーヒーと。
それから、油絵独自の匂い。
たったそれだけのことに、胸が締め付けられる思いがした。
こんなところで突っ立ってたら、怪しまれちゃう。
えっと、引き出物の袋……。
入る前に確認する。
それは、ローテーブルの近くに置いてあった。
洸さんから頼まれたはずなのに、なぜかいけない事をしてる気分になってしまう。
さっさと取りに行こう。
よし。
小さく息を吸い込んで、一歩踏み入れた。
大きな袋を持ち上げたその時。
少しだけ開いたチェストの引き出しに目がいった。
?
引き寄せられるように近づいて、引き出しに手をかける。
ドクンと心臓が跳ねる。
それは、洸さんに没収された、バレンタインのチョコレートだった。



