恋するマジックアワー


……すごい。すごいよ、洸さん。
洸さんは、こんなに素敵な絵を描くんだ。

こんなに幸せな絵、わたし見た事ない。


目頭がジワリと熱くなる。
喉の奥が締め付けられる。

すごいって思うその気持ちのウラガワに、もうひとつ生まれたソレに、わたしは怖くてギュッと手のひらを握りこんだ。



「その絵、素敵でしょ?」



え?


振り返ると、衣装直しした花嫁が立っていた。



「あなた、前に洸くんと一緒にいた子よね?わたしのこと覚えてる?ほら……クリスマスに……」

「あ……はい。覚えてます、その……ごめんなさい! それから今日はおめでとうございます」


慌ててペコリと頭を下げた。


「ふふ。ありがとう。すてきなサプライズだったわ」

「……」


朗らかに微笑むその笑顔は、幸せでキラキラと輝いている。
眩しくて、目が眩みそうだ。


彼女は絵に視線を落とすと、懐かしそうにクスクスと肩を揺らした。


「この絵ね、学生の時から洸くんにお願いしていた絵なんだ」

「……え?」


学生の時?


「わたしをモデルにしてってずっとお願いしてたんだけど、結局描いてもらえなくて。でも、結婚するお祝いって頼んだら。やっと」


そう言った彼女は、本当に嬉しそうに笑って、そっと絵に触れた。


もしかして……。この人洸さんのこと……。

その時、スタッフが彼女を呼びに来た。
披露宴会場の扉の前で、新郎が待っている。


彼の元へ向かう彼女は、パッとわたしに向き直った。



「はいこれ!今日のお礼」

「え?」


ズイっと渡されたのは、真っ白な一輪のバラの花。



「あなたにも、幸せのおすそわけ。 がんばってね」



そう言って笑った彼女は、心底幸せそうで。
もしかしたら洸さんのこと好きなのかもって、そう思った自分が恥ずかしくなった。




式場を出ると、ヒンヤリとした空気が頬をかすめる。
マフラーをしっかり巻いて、空を見上げた。

少しだけ霞みがかった青空が、どこまでも広がっていた。