恋するマジックアワー


「……お見合い……俺が?」

「……はい」


ほんと。
バカな事した。


「あの、わたし、こんなつもりなくて……。ごめんなさい。帰ります」


許してくれるなんて思ってない。
でも。それでもわたしはコートを抱えて、深く頭を下げた。


その時だった。

ふわりと感じるぬくもり。
撫でられてる?そう思った瞬間、くしゃくしゃを髪を乱される。


「気をつけてな。  披露宴終わったらすぐ帰るから。晩飯は一緒に食お」

「えっ、いいの?」

「……いいよ。 だから今は大人しく帰って」

「わかった!」


どうしよう……。
嬉しくて、わたし、今すごくだらしない顔してる。



一通りわたしの髪をクシャクシャに撫でまわした洸さんは、さっさと会場に姿を消した。
人気のなくなったロビーに佇んだまま、髪に触れる。


ガラス越しに見るわたし、顔真っ赤だ。


よし、帰ろう。
ご飯、なに作ろうかな。


踵を返したその時、ふとある絵に気が付いた。


「あれは……」


吸い寄せられるように、足が動く。


きれいな額縁に入れられた、1枚の絵画。


やわらかで、決して派手じゃないのに、たくさんの色彩に溢れてる。
優しくて、幸せそうなその絵のモデルは、あの人だ。


去年のクリスマス。
街中で偶然洸さんを見かけた、あの日。

あの時は、この人が洸さんの彼女なんだってそう思ったけど、その人は、今日別の男の人の隣で、真っ白なドレスを着ていた。


洸さん、この絵を描いてたんだ……。
ずっと。