恋するマジックアワー


観念して隠していたそれを出すと、少しだけシワになっていた。


「なんか迷う理由でもあんの?」

「んー…………」


ありまくりなのです。

唸るように眉を寄せると、牧野は「ふーーん」と小さく呟いた。
それから黙ってしまった牧野。
シンと静まったふたりの間に、下校をする生徒の声が遠くから聞こえた。

吐く息が白い。
冬の夕暮れはすぐに夜を迎えるだろう。


そろそろ帰らなくちゃ。
ああもう、どうしよう。お腹痛くなってきた……。

ここから、美術室は見えない。
でも、間違いなく洸さんはそこにいる。

渡すなら、本当に今しかないんだ。





「あのさ」


しばらく黙っていた牧野の声が、少しだけ掠れて届く。
顔を上げると、まっすぐにこちらを見つめていた牧野と視線がぶつかる。



「それ、俺やるみにくれたやつと違うけど……」

「えっ!? え、っと……その、」

「本命ってやつ?」

「…………」



うわ、なんかヤな感じかな。
中身は、同じなんだけどな……。
上手く出来たのを選んで包んだことに、少しの罪悪感が生れた。


なんと言っていいかわからずに黙っていると、牧野が小さく息を吸い込んだのがわかった。



「っとに。なにしてんだよ。はやく渡しにいかねぇと学校しまっちゃうぞ」

「……うん」


そうなんだけどね?
それが、渡すの難ありの人で……。