視界がぼやけて、泣きそうになったわたし。
「なぁおい、ちょっと」
耳元で響くその低音に、さらに恐怖が募る。
「ぎゃああ」
持っていた鞄を思い切り振りかざしたその手は、いとも簡単に掴まった。
わたしの非力な抵抗をあざ笑うかのように、ギュッと握られた手がグイッと引っ張られる。
「パパぁああ!」
「ああ、もうめんどくせーなぁ……ちょっと黙れっ」
……っ!!?
そう舌打ちが聞こえた瞬間。
目の前に影が落ちた。
息を飲む。
「……」
「……」
瞬きも忘れた視界の向こう側に、心底面倒臭そうな、ずるいくらい綺麗な顔。
少しでも動けば、きっと触れる唇。
彼は、わたしの顎を掴んで妖艶に目を細め、わざとらしく顔を傾けた。
ドックン
心臓が、強く強くはねた。



