「海ちゃんに風邪うつったら困るでしょ。だからダメ」
「……」
なんだ、そういう……。
わたし……ばかだな。
そんな気遣いにさえ、嬉しいと思っちゃうんだから。
でも、決めたんだもん。
洸さんの迷惑になりたくないって。
だから……。
「大丈夫!すぐ終わらせるし。ほらほら病人は寝てください!」
「………。強引だなぁ」
呆れたように笑う洸さんの手を引いて部屋へ入った。
うわぁ。
洋服とかが散乱してはいるけど、本当はきれいなんだろうな……。
リビングに似た、黒を基調とした家具が並んでいた。
黒のキングサイズのベッド。その壁には、たくさんのポラロイド写真。
どれも、油絵らしかった。
大きな窓に、開けたままのブラインド。
ささやかなベランダには、庭の大きな木の枝が間近に迫っていた。
その木の枝のせいで、昼間だというのに少しだけ薄暗い。
初めて入った、洸さんの部屋。
色々考えそうになる意識を戻して、洸さんの腕を引いてベッドへ向かう。
その時だった。
急にグラリと視界が揺らぐ。
同時に、かすかにしていた油絵の香が色濃くなった。
「え?……………わっ」
それは、本当に一瞬だった。
気が付くと、視界が反転していて……。
わたしは、倒れ込んだ洸さんと一緒に、ベッドにダイブしていた。



