恋するマジックアワー


思わず洸さんを突き飛ばす。


「なんだよ、だから謝ってるだろ?見くびって悪かったって。着やせして見えるタイプとは知らず……」

見た……やっぱりあの時見たんだ……


「……もうほんと最低!」


誰もそーいう事を謝ってほしかったわけじゃない!
だいたい、見た事をしっかり謝るべきでしょ?鍵かけてなかったわたしも悪かったけど…………、でもでも!


わたしの軟弱な力じゃ、少しバランスを崩すだけで。
それだけじゃ気が済まなくて、一発お見舞いしてやろうと手を上げた。

ああもう、思い出したら、腹立ってきた!


「もぉ、洸さんのばかっ、無神経ー!」

「っはは」

「笑うなっ」


なんでそんな楽しそうなの?

わたしは怒ってんの!
無邪気に笑うなーっ

容赦なく振り上げたその手は、いとも簡単に捕まってしまった。


「ほんと、可愛いヤツ」

「……ダメだからね。そんなの信じない」


ジロリと見上げた洸さんが、まっすぐにわたしを見下ろしていたから驚いた。


なに?

なんでそんな目でわたしを見るの?



ドキンドキンって心臓が暴れだす。

掴まれた手首が、ジンと痛い。
痛いよ、洸さん……。



「可愛くて、困ってんだって」

「え?」



まるで絞り出すような声。

小さくて、掠れたその声は、海風がかき消してビロードの空へと運んで行く。



気が付くと
わたしは、洸さんにキスされていた。