恋するマジックアワー


「その絵さ……」

「その絵?」

「ん、銭湯の。どんな海だった?」


わたしの気持ちなんて知らない洸さんは、わたしの顔を覗き込んで“海”って言う。


「海かぁ……そうだな、優しい絵だったよ? お風呂に入るとすごくあったまるでしょ?心も体も。その絵を見てると、おんなじ気持ちになった。でも、ちょっぴり泣きたくなった」

「へえ。なんで?」

「うん……。色がね?とってもカラフルで、綺麗なのに、胸がギュって締め付けられるような感覚になったの。そんなの初めてで、だから泣きたくなった」


変でしょわたし。って思わず笑ってみせると、洸さんは柵の上に体を預けたまま目を細めた。


「あー!楽しかったっ。こんな素敵なクリスマス過ごしたのって、世界でわたし達だけだよね、きっと!」

「っはは。大げさぁ」

「そんな事ないよ……っくしゅ!」



て、うわ。
話しながらくしゃみとか、恥ずかしい!


少し風が強くなったみたい。
やっぱり12月の海は、冷たい。

丘の上で、光を送る灯台を眺めていると、いきなり何かが頭を覆った。
それが自分のコートのフードだって気付いて、慌てて洸さんを見上げる。



「……海ちゃんて、ほんと可愛いよな」

「……へ?」



フードの紐をぎゅってしながら、洸さんは言う。
風の音と、フードで耳を覆われて、はっきりと聞き取れなかった。

洸さん?