あ……


あたたかい感触。

気が付くと、目の前には洸さんの顔。



え、えッ?

もしかして……もしかしなくても……今、今わたし……。



バランスを崩して倒れ込んだわたしは、あろうことか洸さんの胸に飛び込んでいて。

唇が触れたのは、たぶん……


ど、どうしよう……!
なにかいわなくちゃ……。

だけど、わたしは洸さんの目を見つめたまま、どうすることも出来ずに固まっていた。


驚いた洸さんの瞳。
柔らかく震えるまつ毛が、長い前髪を揺らす。

いったいどれくらいの時間だったんだろう。
たぶん、ほんの数秒。

だけど、息さえするのも忘れるくらいの距離で。

苦しいくらいの沈黙を破ったのは、洸さんだった。


「……本当よく転ぶな。見かけによらずおっちょこちょいだよな、海ちゃんは。それで?怪我は」

「え……」


息のかかる距離。

ふって笑った洸さんの吐息が、わたしの唇をくすぐる。

馬乗りになったままのわたしを見て、洸さんは呆れながら笑った。



「へ、平気……ごめんなさいっ」



慌てて飛び退くと、のそのそと体を起こした洸さんは、そのままソファから立ち上がった。

それからわたしの頭にポンと手を乗せて、クイッと口角を上げた。


「んじゃ、おやすみ」

「……おやすみなさい」


ーーパタン


やけに大きく響いたドアの閉まる音。
わたしはそれに弾かれるように、力なくソファに座り込んだ。


ドキン ドキン

そっと唇に触れる。



今……そうだよね?
わたし……洸さんと、キスしちゃったの?


どど、どうしよう。
これって、これって……。
少女漫画とかでよく見る……じ、事故……ちゅー……



瞬間、ボンって音を立てて体中が熱くなる。


パパ……わたし、やっちゃったみたいです……。
それからしばらく、放心状態のわたしはソファから動き出せずにいた。


だけど……待って?
もしかして、もしかしなくても……今のチューなかったことにされてない⁉

驚いた様子はあったけど、いつもと変わらない洸さんを思い出して、わたしは大きなため息を零すのだった。