暫く歩いた後、先頭を歩いていた男性は突然茂みに姿を消した。
コウガ達は一瞬戸惑いを見せたが、特に不審に思う事なく男性に続き茂みの中へと足を踏み入れる。
互いに顔を見合わせ不安な顔をしながら。
茂みを抜け身体に付いた木の葉を払いながら辺りを見 回す。
そこにはこの場に相応しくない空間が広がっていた。
一つ脚の白い丸テーブルに背もたれ付きの椅子。
三段のケーキスタンドに並ぶ一口サイズのお菓子に紅茶の入ったティーカップ。
椅子に腰掛けるのは栗色の髪をハーフアップにした小柄な女性。
「只今戻りました、お嬢様」
片手を胸に添え頭を下げるのは、黒いスーツに身を包 みきっちりとネクタイを絞めた藍色の髪の男性だった。
おどけていた彼が、椅子に座る女性を前に別人のよう に態度を変えた。
先程とは全く違う様子に一同唖然とする。
「無事に戻られたのですね、ジーク」
栗色の髪の女性は柔らかく微笑み立ち上がると男性に顔を上げるよう促した。
そして呆然と立ち尽くすコウガ達に目を向けると軽く会釈し微笑む。
再び藍色の髪の男性に視線を戻すと紹介するよう目で合図を送った。
男性は頷くとコウガ達に向き直り片手を女性に向ける。
「此方、我が主人、シェノーラ・フィール・ラグナ ー様」
紹介を受けスカートを持ち会釈。
顔を上げ5人の紹介を待つ。
「此方……此方………」
しかし男性は片手をコウガ達に向けたまま固まっていた。
考えるように視線を上空へと向け数秒後、
「そう言えば、名前、聞いてませんでしたねぇ」
コウガを見つめ思い出したようにポンと手を叩く。
「なっ……貴方って人は……」
「いえ、色々と御座いまして……」
驚いたように目を見開いた後溜め息を吐く女性。
そんな彼女の隣でニコニコと微笑む男性は先程のおどけた彼に戻っていた。

