緊迫感から解放され、少年はゆっくり息を吐き立ち上がる。
一瞬目が眩み一歩後ろへ下がると、脆かった崖が崩れ足を踏み外してしまう。
何もしがみつく物もなく、バランスを崩した少年はそのまま崖の底へと落ちてゆく。
「……っ…!」
声も上げず見開いた瞳に映るのは真っ青に染まる空。
その空のように青白い顔をし息を呑むと、何者かに腕 を掴まれた。
その腕を引かれると、映っていた青空が一瞬にして新 緑の木々へと移り変わる。
腕を引かれるまま前に進むと、額を何かにぶつけた。
顔を上げると、優しい瞳をした茶髪の男性の姿が目に 入る。
コウガの胸に収まった少年は現状を認識するとホッとしたように息を吐き彼を見つめ微笑んだ。
「ありがとうございます、コウガさん」
「?何故、俺の名を?」
「あっ!す、すみません!」
以前に出会った記憶もないし、まだ名乗っていない筈。
なのに何故名前を?
疑問に思い訊ねると、少年は慌てた様子で右の瞳を覆い隠した。
「…神の瞳……」
クレアは少年を見つめ静かにそう言うと、鎌を引きずりながら歩み寄る。
彼女の小さな声に首を傾げると、
「銅は過去、青は未来を見る瞳。それが神の瞳」
説明するようにレオンは言いコウコウガの傍に移動した。
「まだこの力を制御できていないんです……」
覆っていた手を下ろすと現れた銅の瞳。
もう一方は青のオッドアイ。
悲しそうな顔をする彼は神の瞳を持つ少年だった。

