「ぇ……何故……どう…して……」
鮮血が色白な肌を赤く染めた。
目の前にある彼の顔が歪んでいく。
血の付いた鎌は彼女の手から滑り落ち、音を立て地に転がると消え去った。
身体を斬られ深い傷を負ったコウガは傷口を押さえると血を吐き荒い息を整える。
口元の血を拭うと、赤い瞳を見開き後退る彼女を押し倒した。
仰向けに倒れた彼女の上に乗る彼は苦しい筈なのに微笑んでいる。
「…何故……何故避けない……?何故武器を手にしない……?何故…何故私を殺さない……!?」
「…言っただろ……?信じてるって……」
揺れる瞳は何時もの瞳。
狂っていた筈の彼女は何時もの彼女に戻っていた。
「本当に、斬られるとは…思わなかったけど……」
声を出すのも辛いだろうに、彼は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
彼は気づいていたのだ。
彼女が本当は狂ってなどいない事に。
彼女が狂ったふりをしていたと言う事に。

